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哲学と酒のある風景: 4月 2013

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日経新聞の書評を読み、興味を持った１冊の書籍を、仕事の途中で寄った銀座の書店で買い求めた。 12302;冥府の建築家』。 ジルベール・クラベルという、僅か44歳で亡くなったせむし男の「狂った物語」を、著者・田中純が膨大な資料を読み込み、書き上げた大作である。 ジルベール・クラベルの「狂った物語」とは、どういうものであるか。 バーゼルの裕福な家で生まれたジルベール・クラベルは、イタリアの南、ナポリからヴェスヴィオ山を更に南下した、地中海とティレニア海を分断するソレント半島の付け根に位置するポジターノの監視塔の廃墟を、1909年2月に買い取った 。 16世紀にイスラム教徒（特に海賊）の襲撃を見張るためにこの町の岬に建てられた、朽ち果てた監視塔をクラベルは改築する 。 クラベルは長い交渉を通じて徐々に塔周辺の土地を取得し、海に面した岩壁を爆破させて通路を穿ち、居室を刳り貫いていった。 各部屋には「セイレーンの部屋」、「ダイアモンドの部屋」などという名が付けられた。 地中、地中へと、狂ったように掘っていく。 しかしその行為、生き様は、芸術家以外の何者でもないはずだ。

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哲学と酒のある風景: 6月 2012

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プラトン　『饗宴』での文学的構造に対する考察. プラトンの『饗宴』は、哲学書を超えた、素晴らしい文学書である。 12302;饗宴（シュンポシオン）』という表題の原意は、「一緒に（シュン）飲むこと（ポシオン）」である。 12300;飲む」とはこの場合、酒（ワイン）を飲むことであり、「シュンポシオン」とは、要するに「飲み会」のことである 。 12302;饗宴』とは、この酒宴という人の集まる場を借りてプラトンが著した、プラトンの哲学を表現した「文学」であると私は考える。 12302;饗宴』は、プラトン四十代後半の作品、すなわちプラトン中期に位置する作品ということになる 。 従って、これまでの研究によれば中期作品群のソクラテスは、著者であるプラトン自身の見解を表明するものと考えられている 。 私は、『饗宴』の文学的構造に着目した。 それを述べる前に、『シュンポシオン』という著作は、プラトンの哲学を表現する作品であるが、これは当時の一つの文学的形式であることを確認したい。 プラトンと同時代のクセノポンが、『シュンポシオン』という作品を著している 。 大宇宙から、銀河系宇宙へ、銀河系宇宙...更に、地...

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哲学と酒のある風景: 4月 2012

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東京の西のはずれ、国立（くにたち）は、駅前の街路樹が印象的な美しい街だ。 さらに、ロータリーから放射状に、立川や国分寺方面に向かって伸びる道路を見ると、都市計画がきれいに為されている印象を受ける。 吉祥寺が、住みたい町のランクトップであるが、吉祥寺よりも洗練された美しい街が国立であると、私は思う。 かつては南口を線路沿いに歩けば、すぐに土手が現れ、そこから狸が顔を出したという。 しかし、私の愛する変わらない存在が、国立の裏通りには今も健在である。 私が、年に数回足を運ぶ名店、「うなちゃん」。 暖簾が仕舞ってあり、外から見ると中には誰もいないような佇まいが、せっかく来たのに臨時休業か、と不安にさせる。 勿論、それを承知の上で、私は４時に訪れた。 この時間帯は、飲み物だけは飲むことができる状況で、常連はそれぞれの、自分の好きな酒を飲み、店主の準備を眺めながら開店を待つ。 そして、鰻を焼く煙に何十年もくすんできた店内を、ゆっくりと見渡す。 セピア色をしたフィルターで撮った写真のように、下焼きを始めた蒲焼の煙が、店の風景をぼかしていた。 ほりかわ ひでお。1958年東京都生まれ。日本...

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哲学と酒のある風景: 8月 2013

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これは、太宰治の第一創作集である『晩年』の中の、『葉』の一節である。 デコラティブな装飾を造る独りよがりの大工に、藝術とは市民が楽しめる、もっと控えめな美なんだよ、と太宰治が諭していることを、この一節だけを括れば読み取ることができるかもしれない。 しかし『葉』の美しく儚い文体の中で、この挿入された二行は前後の文脈に関連を持っていない。 私と婆様のことを語りながら、幽霊を見た、夢ではないと言って、太宰治はこの二行を挿入する。 直後では、まち子が「あの花の名前を知っている？」と言い、僕は「こんな樹の名を知っている？」と語る。 12302;葉』の中には、まるでアフォリズムのような挿入句がいくつも散りばめられ、不思議な感覚を持って進んでいくのだ。 12302;葉』の冒頭では、ヴェルレエヌの句. 昭和五十一年十版発行の河出書房新社から出ている『文芸読本　太宰　治』は、旧仮名遣いで太宰治の断片を追うことが出来る味わい深いテクストである。 現在、書店で入手できる新潮文庫の『晩年』は現代仮名遣いになっているので、. 私は古書店で旧仮名遣いの『晩年』があるかどうかを聞いてみた。 ランボーぐらい大きな名声がでると&#122...

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哲学と酒のある風景: 1月 2014

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宇宙は本当に神が創造したのだろうか　　 ポオ作 『ユリイカ』 を読んで. 伊集院静が連載をしている、「悩むが花」というページである。 読者からの質問は、確か「宇宙の果てを考えると眠れなくなってしまう」というようなものだった。 その質問に、伊集院静は「人間の人生の明日が誰にも分からないように、宇宙の果てのことも誰にも分からないのです。」と答えたように思う。 私が今までに出会った宇宙の果てに対する説明の中でも、誰にでも分かりやすく、こんな説明の仕方があったのだろうか、と思わずにはいられない回答であった。 カントは、著書『純粋理性批判』で時間と空間を論じ、形而上学を確立しようとした。 つまり、伝統的に言えば、神・霊魂の不死・宇宙の始まりを問う学問である。 時間と空間で思考する存在が宇宙であれば、カントは、そんなもの自体がどんな様子をしているか、などということは、我々人間には知りえないのである. 入り口の入りやすい週刊誌の一ページで、哲学にも似た問答を読んで、私は本棚に放ってある『ユリイカ』を思い出した。 年の未来から届いた手紙から、『ユリイカ』を始める。 12288;そこで、ただちに&#1228...

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哲学と酒のある風景: 10月 2012

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ヴォルテール　『カンディード』を読む. ルソーへの批判、確執が知られているが、『リスボンの災禍に関する詩』を発表したことでも有名であった。 18世紀とは防災のスペックが異なるとはいえ、現在まで発表されている東日本大震災の死者数2万人に比べ、いかに大きな地震であったのかが理解できるだろう。 12302;カンディード』は、1758年1月に書き始められている 。 第5章では、主人公のカンディード達がリスボンに到着し、大地震に遭遇する描写が挿入されている。 その後古書店で、1956年に第1刷が発行され1981年の第27刷版の、吉村正一郎の訳書を見つけ買い求めた。 二人の訳者の、異なる描写を楽しむ醍醐味を味わったが、我国でこれほどまでにヴォルテールが読まれていることを私は知らなかった。 カンディードは男爵の娘キュネゴンドを、初めて出会ったときには類い稀な美人だと思っていて、結婚を熱望していた。 彼がシレーでシャトレ侯爵夫人と垣間見た幸福と静かな生活、愛と英知についての夢に、予測のつかない気まぐれな実生活が侵入しつつあったからである。 この始まりは『カンディード』と同様だ。 65288;2） ヴォルテ...

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哲学と酒のある風景: 3月 2012

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12302;ソクラテスの弁明』、『クリトン』が１冊になった、岩波文庫だ。 1927年に第1刷が発行された、久保勉が訳したこのプラトンの著作は、紀元前399年ソクラテスは不信心にして、新しき神を導入し、かつ青年を腐敗せしめる者として、市民の各階級を代表する三人の告発者から訴えられ、ついに死刑を宣告されるに至った （１）. 12302;ソクラテスの弁明』では、アテナイの法廷でのソクラテスの弁明が、弟子プラトンの筆により活き活きと、かつ芸術的に語られている。 12302;クリトン』は死刑の宣告があった後、獄中においてソクラテスとその忠信なる老友クリトンとの間に交わされたる対話から成っている 。 ソクラテス以上の賢者があるか、とカイレフォンに伺いを立てられた巫女は、ソクラテス以上の賢者は一人もいない、と答える。 ソクラテスはこの神託に対し、神は一体、何を意味し、また何事を暗示するのであろうか 、. 神には虚言のあるはずがなく、ソクラテスは賢者と名高い人に会い、その賢者とソクラテスとどちらが至賢であるかを確かめようとした。 65288;2） プラトン著　久保勉訳　&#12...65288;3） プラ...

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哲学と酒のある風景: 11月 2011

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12302;エスクァイア日本版』2001年1月号。 表紙には大きく、シャトー・マルゴー1928年のボトルが刻印されている。 12300;ワインに愛された奇才たち。」とクレジットされたその号は、ピカソやロートレックからゲーンズブールまで、それぞれの奇才とワインに纏わるエピソードが紡ぎとられている。 ここに登場するヨハン・ゲーテ、ナポレオン・ボナパルト、クロード・モネ、パブロ・ピカソ、トゥールーズ・ロートレック、ココ・シャネル、藤田嗣治、アーネスト・ヘミングウェイ、吉田健一、トルーマン・カポーティ、セルジュ・ゲーンズブールそれぞれの研究者はもとより、文学者の１級の資料となりえる文章が展開されている。 私が特に惹かれたのは、竹中充によるボージョレーとアルベール・カミュの因果を語った文章であった。 竹中充は、1957年生まれ白百合女子大学仏文学科を卒業し、ワインに関する著作が数冊あるだけで多くを知られていない。 その太陽の想いを人生の最後まで放さずに、霧にけぶるパリ （１）. 12300;なぜ僕らは飲むのか？無力感からであり、自分を責めるからである 」. ほりかわ ひでお。1958年東京都生まれ&...